名古屋高等裁判所 昭和53年(ウ)310号 決定 1978年12月07日
申立人
カスミ自動車合資会社
右代表者
伊藤藤一
主文
本件忌避の申立を却下する。
申立費用は申立人の負担とする。
理由
一申立の趣旨及び原因は別紙のとおりである。
二当裁判所の判断
当裁判所は本件忌避の申立は忌避権申立権の濫用にあたるものと判断するものであつて、その理由は次のとおりである。
すなわち、申立人は前記本案事件の控訴人(一審原告)であるが、右本案事件の記録によると、申立人は原審名古屋地方裁判所における右事件の審理中、次のとおり審理担当の裁判官に対する忌避の各申立をなしたところ、いずれの申立も却下され、かつ右却下決定に対してなされた抗告申立もすべて棄却されたことが認められる。
① 名古屋地方裁判所昭和四八年(モ甲)第二九八号裁判官忌避申立事件(被申立裁判官荒井史男)
同庁昭和四八年六月一三日申立却下
当庁昭和四八年(ラ)第一一二号同却下決定に対する抗告申立事件 昭和四八年八月一三日抗告棄却
② 名古屋地方裁判所昭和五〇年(モ甲)第一一七号裁判官忌避申立事件(被申立裁判官可知鴻平、同荒井史男、同遠山和光)
同庁昭和五〇年六月一三日申立却下
当庁昭和五〇年(ラ)第六八号同却下決定に対する抗告申立事件 昭和五〇年八月七日抗告棄却
③ 名古屋地方裁判所昭和五一年(モ甲)第三四四号裁判官忌避申立事件(被申立裁判官可知鴻平、同松原直幹、同高野芳久)
同庁昭和五一年六月四日申立却下
当庁昭和五一年(ラ)第一一六号同却下決定に対する抗告申立事件 昭和五一年七月一五日抗告棄却
ところで、以上の裁判官忌避申立却下並びに同却下決定に対する抗告棄却決定によれば、申立人の前記裁判官忌避申立は、当該事件の審理に関与していない裁判官を忌避したり、あるいは忌避の原因をなんら具体的に主張せず、疎明もしないものであるとして不適法または理由なしとして却下されたものばかりであり、このように特定の訴訟事件の審理中に三度にわたり裁判官に対し忌避の申立をなすことはまことに異常であつて、右申立がなされるに至つたことについてこれを了とすべき何ら特段の事由も見出し得ないことからすれば申立人に真に迅速な裁判を受ける意思があつたのかどうか甚だ疑わしいのみならず、前記各申立却下決定の理由に照らせば申立人の忌避申立が果して真摯になされたかどうかについても問題があるといわざるをえない。
さらに、当審において、申立人は昭和五三年一一月六日当裁判所裁判官三名に対し忌避申立をなしところ(当庁昭和五三年(ウ)第二八四号裁判官忌避申立事件)、当庁第二部において同年一一月一五日右申立を却下する旨の決定がなされた。そこで当裁判所裁判長は同月二二日前記本案事件の口頭弁論期日を同年一二月二一日午前一〇時と定め、これを申立人に告知したところ、申立人は同月二日重ねて当裁判所裁判官三名に対する本件忌避申立をなすに至つた。
以上の経緯並びに本件申立にかかる忌避の原因になんらの具体性もないこと等に照らすと、本件申立は徒らに審理の遅延のみを目的としてなされたものであつて忌避申立権の濫用と断ずるほかはない。
もとより民事裁判においては、忌避された裁判官が自ら当該忌避申立を却下するいわゆる忌避申立に対する簡易却下手続の規定(刑訴法二四条参照)は存しないけれども、訴訟を遅延させる目的のみでされたことの明らかな忌避の申立が忌避権の濫用として許されないことは明文の規定の有無にかかわらず裁判制度上自明の理というべきである(民法一条二項三項参照)。
三以上の理由により本件忌避申立は不適法としてこれを却下し申立費用は申立人に負担させて、主文のとおり決定する。
(丸山武夫 山下薫 福田晧一)
【別紙】
〔申立の趣旨〕
御庁昭和五二年(ネ)第六四三号譲受債権控訴事件について裁判長裁判官丸山武夫、同裁判官山下薫、同裁判官福田晧一、右三名の裁判官に対して忌避は理由があるとの裁判を求めます。
〔申立の原因〕
申立人カスミ自動車合資会社控訴人代表社員無限責任社員伊藤藤一、被控訴人株式会社富士交通に対して譲受債権控訴事件に訴を提起し目下昭和五二年(ネ)第六四三号事件として御庁民事部第一部で審理を受けているが同部の裁判官右三名は右事件の裁判の行偽ママに対して裁判の一方てき裁判をなす憲法の第一四条同第三二条に違背する不公平で一方てきで一国民の裁判を受ける権利を職権をもつて妨害する裁判をなす事の事実があるので不公平、不等の事実があるので裁判官忌避の申立に事情がある次第であります。